SWOG 8794
横溝晃氏の論文で藤野邦夫『前立腺ガン 最善医療のすすめ』実業之日本社に関して「また個別テーマで書くかもしれない。その際はブログではなく、本サイトに書くことにしよう」と書いた。これが最後と断定することはできないが書いてみる。
P.265に以下のように書かれている。
2006年6月の『JAMA』（アメリカ医師会雑誌）にSWOG-8794という全摘除術＋外部照射の研究データが発表され、前立腺の全摘除術のあとに外部照射を受けた高リスクの患者の治療戦績が明らかにされた。
全摘除術＋外部照射とは、リスクの高い前立腺ガン患者にたいして、全摘除をしたあと再発のリスクを低くするために外部照射を併用する治療法のことである。 SWOG-8794によれば、全摘除術＋外部照射の患者と全摘除のみの患者の非再発率は、5年で84%対69%、10年で68%対49%だった。
この臨床試験に関することもハイリスク症例に対する密封小線源療法の可能性 講演：Nelson N. Stone MDに以下のように引用されている。
根治的前立腺全摘除術に補助放射線療法を加えた結果はどうでしょうか。図6は2006年にJAMAに発表されたSWOG-8794のデータです。これで明らかになったのは、根治的前立腺全摘除術と補助放射線療法 を受けた患者では、根治的前立腺全摘除術単独の患者より生存率が約30～35%改善されたということです。この結果より根治的前立腺全摘除術の局所再発率が30～35％であり、その残存腫瘍が放射線療法により治療されたということになります。
図6はPSA非再発の図であり、確かに図6をみると矢印の示す差は約30～35%ほどであることがわかる。ただし、10年PSA非再発はどうみても全摘除術＋外部照射で約53%、全摘除のみで約27%で藤野さんの示した値と明らかに異なる。話はこれで終わりなのだが、念のため、Stone氏の講演資料で示されているJAMA. 2006 Nov 15;296(19):2329-35.、full textをみてみる。
なお、この臨床試験ではPSA再発を0.4 ng/ mlを超えた場合と定義している。
84%でfull text を検索すると、以下の文がみつかる。
5- and 10-year metastasis-free survival of 84% and 63%, respectively.
これは無転移生存について述べたところであり、5年無転移生存が84%で10年が63%であることをいっている。図2 に全摘除術＋外部照射と全摘除のみの表が示されているが、特に値は記されていない。69%、68%、49%で検索してもヒットしない。さて、どこから得た値であろうか。藤野氏は2006年6月の『JAMA』と書かれているが、論文は2006年11月15日の日付が記載されている。日付の間違いは些細なものであろう。
と藤野さんの著作に関することはこれで終わりだが、関連してSWOG 8794に関して少し調べてみた。やはり、NCCNガイドラインを参照するのが一等いいということで、最終的にはそこで記述されていることが本来の臨床試験の成果といえるものだろう。
NCCNガイドライン 2014年 第2版
MS-24
SWOG8794試験の結果がThompsonらによって報告された。被験者はアジュバントRTを受ける群と通常のケアを受ける群にランダム化され、中央値で12.6年間に及ぶ追跡が行われた[243]。最初の報告では、アジュバントRTによってPSA再発および癌再発のリスクが低下したことが示された[244]。その後の報告では、前立腺摘除術後にアジュバントRTを受けていた高リスク患者（精嚢浸潤陽性）において経過観察の場合と比べて10年生化学的無再発生存率の改善がみられた（36％ vs 12％、P＝0.001）[245]。
[243] J Urol. 2009 Mar;181(3):956-62.
[244] JAMA. 2006 Nov 15;296(19):2329-35.
[245] J Urol. 2008 Dec;180(6):2453-7; discussion 2458.
さきにあげた論文は[244]であり、最初の報告であり、その最終報告は[243] ということだ。以下、PSA非再発率に関して言及している[245]の full textをみてみる。
12%で検索してみる。以下の文がみつかる。
the 5 and 10 year biochemical failure free survival were 49% and 22%, respectively. For the radiation patients it was 62% and 36%, respectively, and for observation it was 36% and 12% respectively.
これだけでは、何なので、Table 2 より精嚢浸潤陽性、非陽性の5年PSA非再発率、10年PSA非再発率を示す。
精嚢浸潤陽性の場合
5年PSA非再発率
全摘除術のみ 36%
＋外部照射 62%
10年PSA非再発率
全摘除術のみ 12%
＋外部照射 36%
精嚢浸潤非陽性の場合
5年PSA非再発率
全摘除術のみ 45%
＋外部照射 68%
10年PSA非再発率
全摘除術のみ 27%
＋外部照射 39%
藤野さんの非再発率はどこからきたのだろうか。大いなる疑問である。
2016/04/19