トリモダリティ考

「トリモダリティ考」という表題をつけたが、もちろん、医学的に前立腺がんに対する「トリモダリティ」 1) といわれる治療法を考察するものではない。ネット他でどのように使用されているのかを検証しようとする試みである。

ブログに書いたGoogleで「トリモダリティ」を ac.jp ドメインに限定して検索及びトリモダリティという単語という記事をまとめたものに加筆したものである。ブログに書けばいいのだが、あえてサイトでの記事とする。

初めての遭遇

トリモダリティという単語をはじめて目にしたのは、腺友ネット:掲示板でのことだった。はじめてトリモダリティという単語をしり、まるで魔法の療法のように感じた。琵琶湖の近くの病院で行っているとの情報でどこの病院なんだろうと思ったものだ。

掲示板内検索をすると今日現在で358件の記事がある。最初の投稿は「前立腺ガン 最善医療のすすめ」というひげの父さんこと武内務氏の2013年6月10日の記事であり、藤野氏の著作を紹介しているものだ。本に関してこういう記述がある。

ズバリ言うならこれはお勧めですね。

初投稿以来3年半なので単純に割ると年平均102件の「トリモダリティ」という単語を使った記事が投稿されていることになる。

Yahooでの検索結果

ブログではGoogleで検索したが、Yahoo!でも結果が同じことが確認できたので、使用している人の多いと思われるYahooでの検索結果を示す。検索語は "トリモダリティ" とする。トリモダリティで検索すると検索エンジンは語を分割し、「トリ」でも「モダリティ」でもヒットするからだ。

以下、検索時刻は2016年12月23日午前7時における検索結果だ。

「"トリモダリティ"」 で検索

1,870件ヒットし、topページの10件は以下のとおりである。

  1. トリモダリティ 滋賀医大へ | じじ..じぇんじぇんがん
  2. トリモダリティ体験記 | じじ..じぇんじぇんがん
  3. 高リスク前立腺がんの治療法別成績【1】|ブラキ・サポート
  4. 信州のマサジロー | 前立腺がんトリモダリティ体験記
  5. 高リスク前立腺がんでも根治が可能なトリモダリティ治療とは? | がんサポート
  6. トリモダリティ治療で 高リスク前立腺がんを克服 - 滋賀医科大学 (PDF)
  7. 4. 前立腺癌小線源療法のリスク別 非再発率について ... - 滋賀医科大学
  8. 前立腺癌密封小線源治療 | 滋賀医科大学 泌尿器科学講座
  9. 自身の状態と希望で治療法を選ぶ前立腺がん治療:がんナビ
  10. トリモダリティという単語

10. は先にあげた私のブログの記事である。1.、2.及び4.は滋賀医科大で治療を受けた人のブログ記事である。5.は雑誌「がんサポート」の記事であり、以下のように書かれている。

監修 矢木康人 国立病院機構 東京医療センター泌尿器科
取材・文 伊波達也

3.はシードを扱う(株)メディコンが運営するサイト、ブラキ・サポートの記事であり、以下のように書かれている。

<執筆>滋賀医科大学 泌尿器科 岡本圭生先生

9.は日経のサイト、がんナビ |がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートの記事である。残りの3つは滋賀医科大のサイトの記事である。

「"トリモダリティ" 前立腺 site:ac.jp」 で検索

ac.jp ドメイン 2)に限定して検索した結果を以下に示す。「前立腺」という検索語を追加したのは他の部位を排除するためだ。

6件、検索された。

  1. トリモダリティ治療で 高リスク前立腺がんを克服 - 滋賀医科大学 (PDF)
  2. 4. 前立腺癌小線源療法のリスク別 非再発率について ... - 滋賀医科大学
  3. 3. 滋賀医科大学でおこなっている前立腺癌小線源療法の特徴について ...
  4. CiNii 論文 - 3つの治療を組み合わせたトリモダリティ治療 10年生存率80%以上 ...
  5. 全国トップクラスの前立腺がん 小線源治療を実践 - 滋賀医科大学 (PDF)
  6. 腎がん・膀胱がん 前立腺がん・腎盂尿管がん - 九州大学病院 がんセンター (PDF)

4.は「"トリモダリティ"」で検索された5.の記事の書誌情報である。
6.は患者向けのパンフレットの一部に前立腺がんの中間リスクに対しては条件付き適応であり、その注として書かれた以下の文の「トリモダリティがヒットしたものだ。

内分泌療法、密封小線源治療、放射線外照射の3つを合わせて(トリモダリティと呼ばれています)治療することは可能です。

なお、高リスクの適応はXとなっている。

残りの4件は滋賀医科大のサイトのページである。

「"トリモダリティ" 前立腺 site:go.jp」 で検索

5件検索されたが、1件は下記の3. と同じURLに転送されるものであるので表記は省略する。

  1. 3つの治療を組み合わせたトリモダリティ治療 10年生存率80%以上という治療成績 高リスク前立腺がんでも根治が可能なトリモダリティ治療とは? : 2015-03|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
  2. 併用療法の意義と効果(PDF)
  3. 併用療法の意義と効果 - J-Stage
  4. 併用療法の意義と効果 : 2013-09|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

1.は「"トリモダリティ" 前立腺 site:ac.jp」 で検索した4.と同じで「がんサポート」の記事の書誌情報である。

リンクされているページ

高リスク前立腺がんで、トリモダリティーを積極的に実施している施設 前立腺がんの小線源療法 日本メジフィジックス株式会社には現在、以下の7つの病院のページがリンクされている。
なお、戸畑共立病院のアドレス、http://www.kyoaikai.com/kyoritsu/cancer/syousengen.htmlはリンクエラーとなるので、該当すると思われるページをリンクした。

  1. 札幌医科大学附属病院 放射線医学講座
  2. 昭和大学江東豊洲病院 密封小線源永久挿入治療について
  3. 滋賀医科大学 前立腺癌小線源治療学講座
  4. 奈良県立医科大学 小線源療法(ブラキセラピー)
  5. 県立広島病院 放射線治療科
  6. 徳島大学病院 泌尿器科学分野(小線源療法)
  7. 戸畑共立病院 前立腺密封小線源治療

これらのページでトリモダリティという単語が使用されているのは1. 2.5.7. である。滋賀医科大に関しては、上記したように別のページでは使用されている。

なお、札幌医科大では「トリモダリティー」と記述されているので、"トリモダリティ"ではヒットしなかった模様である。「"トリモダリティー" 前立腺 site:ac.jp」で検索すると、札幌医科大のページと次のページが検索される。
前立腺密封小線源永久挿入治療外来|関西医科大学総合医療センター

使い方の違い

昭和大学

「リンクされているページ」の2.の昭和大ではこう書かれている。

当院での小線源治療の特色は、米国での経験および外部照射の治療データから、開始当初からリスク(後述します)の低い前立腺がんだけをシード治療の対象とするのではなく、中リスク、さらに高リスクの前立腺がんにもホルモン療法や体外照射と組み合わせた集学的な小線源治療を開始していることにあります(3者併用療法、トリモダリティ治療、2005年開始)。
シード治療と体外照射の放射線治療と長期のホルモン治療(約2年半)をすべて併用する(3者併用療法、トリモダリティ)
当科での高リスク前立腺がんへの3者併用療法(トリモダリティ)の長期治療成績です。
高リスクがんに対するシードを用いた併用療法(Trimodality、トリモダリティ)の解説です

ここで使われているのはあくまでも3者併用療法という言葉が先にきて、その補足としてトリモダリティという言葉が使われているということである。

また、Trimodality therapyで示したようにシンポジウムの発表では表題は「ハイリスク限局性前立腺がんに対するTrimodality therapyの治療成績」ということで英語で表記されている。 3)

滋賀医科大学

「"トリモダリティ" 前立腺 site:ac.jp」 で検索の3.の滋賀医科大では以下のように書かれている。

近年、難治性とされる高リスク前立腺癌に対してホルモン治療を短期におこないながら小線源治療と外部照射併用による超高線量照射(高リスク癌に対するこの治療をトリモダリティと呼んでいます)を行うことにより、非常に優れたデータが海外より出ています。

金沢大学 小中弘之氏の論文

「"トリモダリティ" 前立腺 site:go.jp」 で検索での2.ではこう書かれている。

小線源療法,外照射療法,ホルモン療法の3者併用(トリモダリティ療法)まで踏み込んで,これまでの報告をレビューしながら併用療法の意義と効果を考察したい.

また、小中氏はTrip臨床試験の名前はTri-Modality therapy からとり、論文、BMC Cancer. 2012 Mar 22;12:110.を書いている。この論文は小線源治療の論文で紹介した。

トリモダリティという言葉の意味と拡散

以上、長々とWebにおける「トリモダリティ」という言葉が見うけられるサイトをYahoo検索他により提示した。昭和大における「高リスク前立腺がんへの3者併用療法(トリモダリティ)」という説明がごく端的なものだろう。「初めての遭遇」で書いた「魔法の療法のように感じ」がしたというのは ac.jp ドメインで多くのページに載せられている滋賀医科大の筆致からくるものだろう。

「"トリモダリティ" 前立腺 site:ac.jp」 で検索の3.での滋賀医科大での使い方については先に引用した。同じページに引用した「超高線量照射」に関して次のように説明している。

われわれ小線源治療チームはマウントサイナイメディカルセンタで始められたリアルタイムインプラントを高精度でおこなうため独自の治療プログラムを編み出し、これにより他施設より圧倒的に高い線量の放射線を副作用なくあてる経験と技術を有しています。

トリモダリティという言葉に優秀な治療法という含意をもつのは滋賀医科大が顕著である。治療法の説明と当院の技術力の高さをそれとなく各病院のサイトでは表現するが、滋賀医科大のサイトは鮮やかということだろう。さらにもう一つの特色は治療を受けた患者が自分のサイト、ブログまたは掲示板で治療経験を語ることだろう。もちろん、他の病院で治療を受けた人のページもあるが、病院名、医師の名前が暗に陽に分かるように書いているのが多いのは滋賀医科大だろう。ネット上での拡散といえる。ただ、5年以上経た患者で詳細に治療経験を書いたものを私はみたことはない。

これからもトリモダリティは「超高線量照射」が可能で優秀な治療成績がある素晴らしい治療という意味あいでの拡散は続くだろう。

『前立腺癌 診療ガイドライン 2016年版』のP.167には次のように書かれている。

CQ2 永久挿入密封小線源療法と外照射とホルモン療法の3者併用療法はどのような患者に推奨されるか?
高リスク症例に推奨される。ただし一部にホルモン療法の必要ない患者が存在し得る。中間リスク症例の一部にも適応があるが、明確な基準はない。 推奨グレードC1 

推奨グレードに関してはP.2に書かれている。

推奨グレードC1 科学的根拠はないが、行うよう勧められる。

1) 小線源治療と体外照射の放射線治療とホルモン治療を併用する療法(3者併用療法)
2) ドメインに関してはドメイン名の種類 - JPNICを参照のこと。
「AC.JPは国立大学法人、公立大学法人他」ということだ。これらの組織のサイトに限定しての検索である。
また、「GO.JP は日本国の政府機関、各省庁所轄研究所他」である。
3) 「(前立腺癌 OR 前立腺がん) "trimodality" site:ac.jp」で検索した結果は645件である。(12時30分)

-----2017/02/15に追記
高リスク前立腺がんで、トリモダリティーを積極的に実施している施設のページでは更新日:2017年2月6日 ということで、熊本赤十字病院が追加されていた。リンクされているページにはトリモダリティという言葉は使用されていない。
なお、上記で「戸畑共立病院」に関するリンクエラーは修正されていたので、見え消しとした。

2016/12/23