幽霊はここにいる

1998年5月17日

5月16日、新国立劇場中劇場で安部公房作「幽霊はここにいる」を観る。1958年に初演された作品を公房没後5年の今年、串田和美の演出、ワダエミの衣装で上演されることに対して期待を持ち、劇場に足を運ぶ。
小回りのきくオープンな車に人を載せ、軽快な朝比奈尚行の音楽にのり、舞台の上をめぐる。否応もなく期待が高まる。しかし、一幕、二幕は公房の戦後の時代設定の中での状況をおずおずとなぞったような演出でがっかりした。音楽の軽快さと裏腹に説明的なストーリ展開が続く。ただ、円をイエンと発音することでどこにもない世界を少しだけ示唆する。
しかし、三幕となり、布やビニールを大胆に使ったファッションショーから、俄然テンポが速くなり、本物の深川が現れ、大団円まで一気に進行する。吉田の個人的な苦悩が、モデル嬢の安易な誘惑の可笑しさ、最後の「幽霊はここにいる」というここにもどこにもいるという言辞に至るまで心地よいカタルシスを感じた。公房独特のユーモアが軽やかな演出によって蘇った感じだ。
カーテンコールの後、少し照れたように串田和美は退場する。次は何か。

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