1996年11月10日
「安部公房写真展」
11月9日、丸の内の画廊ウイルデンスタイン東京で開かれている安部公房写真展を観る。満州の荒野にも似た都会の諸相。蹲る人、マネキン。孤独が石のように誇らかに存在する。煌びやかなのっぺりとした都会ではなく、小さな隠されたフォルムを写真にとる。「箱男」に載せられていた写真が短文の原稿とともに展示されていた。
小さいものをみつめていると、生きていてもいいと思う。
雨のしずく･･･････濡れてちぢんだ革の手袋･･･････
軍艦島に残された靴の写真は小説「なわ」の最後「古靴を父の枕元にきちんとそろえて返してやった」という文を想起させる。物がそれを使用し、意味付ける人間を指し示し、ある構造を構築するという公房本来の小説の視覚サイドからの極めて印象的な展覧会だった。
インスタントカメラによるセルフポートレートに写る公房は少し疲れてはいるが、見続けることを止めない意志を感じる目がそこにあった。
小さいものを見続け、発明を続けた人はもういない。
開催は11月29日(金）まで。
ウイルデンスタイン東京 phone:03-3211-7537
千代田区丸の内3-1-1 国際ビル １Ｆ